乳腺良性疾患について
乳房には乳がん以外にもいろいろな病気があります。
良性の病気の一部には、乳がんとの見分けが難しい場合や乳がんに進行する場合があり、定期検査と必要に応じた追加の検査が大切です。
乳腺のう胞
丸い形をしていて、サイズは、数mm~数cmほどとばらつきがあります。
内部は液体で乳房内に複数認められることも多く、数が多い場合には定期検査が必要となります。
画像検査の結果、単純性と混合性の2つに分けられます。
乳管(母乳を運ぶ管)の炎症、拡張、閉塞によってできるとされています。
- 治療
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単純性は問題ないことが多いですが、痛みを伴う場合や大きい場合には注射針で吸引し、内部の確認と細胞の診断を行うことがあります。
混合性は、乳がんなどの悪性と関係することがあるため、針生検や手術を行うことがあります。
乳腺症
乳房のさまざまな良性変化のことを総称して、乳腺症と呼びます。
嚢胞や線維化、過形成、乳頭腫など、いろいろな病状が含まれ、乳がんが潜んでいないか、乳がんに進行しないかを注意します。
生検によって、硬化性腺症や乳頭腫症、異型乳管過形成などがみられる場合には、前がん病変と考えられることもあるため、特に慎重な判断が求められます。
症状としては、乳房のしこりや突っ張り、痛みなどがあり、硬さや痛みは月経周期と連動することが多いため、月経周期に関係しない症状が出る場合には早めの受診が必要です。
乳頭(乳首)からの分泌物が症状となることもあり、その色は透明、黄色、母乳様、血性などさまざまです。
体質や女性ホルモンバランスの乱れ、炎症などが原因として挙げられます。
- 治療
- 程度に応じて、生活指導や内服治療を行い、乳がんリスクに応じた経過観察をおこないます。
線維腺腫
代表的な乳房の良性疾患で、10代後半~30代の若い女性に多くみられます。
女性ホルモンに反応し、月経前や妊娠期に大きくなることがあり、半数の方で乳房内に複数みつかります。
自覚症状は2~3cmほどの滑らかなよく動くしこりとして気付くことが多く、時に5cmをこえることもあります。
同じようなしこりの乳がんもあるため、若年でも自己判断せず、超音波検査などまずは検査を受けることが大切です。
一方で、画像検査だけでは、線維腺腫と区別がむずかしい乳がん(粘液がん、非浸潤がん)やその他の腫瘍(葉状腫瘍)もあるため、大きくなる場合や必要に応じて細胞診や針生検を行います。
線維腺腫から乳がんができるのは稀だとされていますが、複数ある場合には注意が必要です。
- 治療
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しこりが目立つ場合や痛みがある場合には、摘出手術を相談します。
また、3cmを超える時や乳がん、葉状腫瘍の可能性がある時には、確定診断と治療のため、摘出手術をすすめることがあります。
葉状腫瘍
乳房の良性腫瘍ですが、一部、悪性のものがあります。(悪性葉状腫瘍)
幅広い年代にみられますが、とくに30代に多いとの報告もあります。
症状としては、急速に大きくなるしこりとして気付くことが多く、痛みが出ないこともあります。
超音波検査やMRI検査で内部に嚢胞や裂け目を認めることで分かる場合もありますが、画像検査や針生検では線維腺腫との区別が難しい場合があります。
- 治療
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葉状腫瘍が疑われる場合には、摘出手術がすすめられます。
再発を繰り返すことも多く、乳房部分切除術を行う場合もあります。
乳管内乳頭腫、のう胞内乳頭腫
乳房の良性腫瘍の1つであり、30~50代に多くみられます。
多発する場合や異型(顕微鏡検査での所見)を伴う場合には、正確な頻度は不明ですが、乳がんに進む可能性があります。
無症状が多く、乳頭からの分泌で気付くことがあります。
時に診断が難しく、乳がんでないことや乳がんの併発を調べるため、針生検を繰り返し行う場合や手術を行う場合があります。
- 治療
- 画像検査と針生検では悩ましい場合や異型がみられる場合には、摘出手術や乳管腺葉区域切除術がすすめられます。
その他の良性疾患
乳腺やその周囲には、乳管拡張症、線維腺腫症、炎症性偽腫瘍、腺腫、過誤腫、線筋上皮腫、粘液瘤様腫瘍、脂肪腫、異所性・迷入乳腺、乳腺炎、乳腺膿瘍などの良性疾患もあります。
乳腺炎は乳房の腫れやしこり、赤み、熱感、痛みを認めることがありますが、よく似た症状の炎症性乳がんと呼ばれる進行が速い乳がんもあるため、注意が必要です。
また、硬化性腺症、放射状瘢痕、複合硬化性病変、および異型乳管過形成や異型小葉過形成など一部の良性疾患は、乳がんに進むことがあり、前がん病変とみなされることがあります。
- 治療
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乳がんの合併がない場合は経過観察、または症状に応じて治療を行います。
一部の良性疾患や前がん病変、また、乳がんの合併が否定できない場合には手術を検討します。
手術までの流れ

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- 手術決め外来
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症状や検査結果によって手術方法を決定、手術日や通院日程を相談します。良性疾患の場合、多くは1泊、もしくは日帰りとなります。
手術・麻酔に必要な検査(採血、採尿、心電図、胸部X線など)、手術や入院の案内(持ち物や費用、手術当日の来院時間など)、全身麻酔の場合は麻酔科医師による診察を別日もしくは同日におこないます。
必要に応じて、ご家族と一緒に来院ください。
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- 入院・手術
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指定の時間にご来院いただき、手術を行います。
1泊入院の場合、食事は当日の夕食から開始して、翌日の朝食後に退院となります。
日帰り手術の場合は手術終了後そのまま帰宅することもできますが、夕方まで療養してから退院される患者さまもいます。
手術翌日または帰宅後からシャワーが浴びられ、帰宅後は日常生活に大きな行動制限はありません。手術部位に負担がかかる動作は控えてください。
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- 診察(1週間後)
- 採血、診察をおこないます。必要に応じて、手術部位のケアを案内します。
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- 結果説明(1〜2週間後)
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手術・病理結果を説明します。
結果によって、今後の方針を案内します。
入院スケジュール

手術後の回復力を高める入院生活
- 手術前処置はありません。
- 下剤・浣腸・術前点滴の使用を控え、ストレスフリーで歩いて手術室に入室します。

- 手術後の痛みと吐き気の軽減に努めています。
- 鎮痛薬を積極的に用いた疼痛管理と国際的ガイドライン推奨の薬による嘔気対策を実施しています。

- 手術当日から食事を開始します。
- 手術当日の夕食から経口摂取が可能となります。

- 手術翌日からシャワー浴ができます。
- シャワー・トイレ付きの個室で、普段と変わらない生活に向けて全身の回復を促します。

手術費用について(概算)
健康保険の適用となります。3割負担の場合のおおよその目安です。
- 乳腺腫瘍摘出術
- 50,000円~70,000円
- 乳菅腺葉区域切除術
- 90,000円~110,000円
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※高額療養費制度の対象となります。所得によって決められた自己負担限度額を超えた分が払い戻されます。加入している健康保険証の発行元に事前申請を行い、交付された「限度額認定証」を入院会計時にご提出いただくと、医療費請求額を自己負担限度額までの金額にとどめることができ、医療費の窓口負担を抑えることができます。
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※差額室をご利用の場合は別途となります。
こんなときは、お気軽にご相談ください
乳房の良性疾患は、検査で明らかになる場合と難しい場合とがあります。
乳がんが否定できない時や悪化した可能性がある時は追加の検査や手術が必要になることもあります。
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1
健診で異常を指摘されたとき
乳がん検診での精密検査指示や、3~6ヶ月後の再検査、経過観察を指示された場合は、乳がんの可能性がゼロではないため、指示に従って受診をお願いします。
自覚症状がないことも多いですが、経過を待っている間に症状が出現した場合には、早めに当院へご相談ください。 -
2
他院で良性と診断されたが症状が進んだとき
以前良性と診断されたものでも、しこりが大きくなったり、痛みが出たり、分泌が増えるなど症状が進んだ場合には注意が必要です。
良性と悪性の区別が難しい乳がんや、時間とともに乳がんに進むことも考えられます。
診察や針生検、MRI検査が有効となる場合もありますので、早めに当院へご相談ください。