手術後に一日でも早く日常生活に戻れるように
これまでの手術では、絶食期間が長く、痛みや動くことに対しても我慢を強いられてきました。その結果、身体機能は低下し、回復に時間を要していました。
そこで当院では、手術に対する患者さまの身体的・精神的ストレスを最小限にするため以下に重点を置き、手術後の体力を早期に回復させるプログラムを導入しています。
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①痛みを減らす
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②早期に自力歩行する
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③早期に食事をする
こうしたプログラムの実施により、体力の消耗や身体機能の低下を抑えることができ、短期入院につながっています。
実績(2024年度)
当院では、全例の手術に対してERASプログラムを実施しています。
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1
術後回復能力強化プログラム実施件数
約2,646件
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2
術後の離床時間(歩行・食事開始)について
離床・飲水・食事
約2時間 -
3
平均入院日数
2.8日
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4
手術後の吐き気対策
手術中から効果が高い制吐薬を予防投与しています。
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5
尿道カテーテルの留置
カテーテルの留置は最小限にしています。
対象となる診療科
- 手掌多汗症・鼠径部ヘルニア
- 日帰り~1泊
- 尿失禁 尿路結石
- 1泊
- 手の外科
- 1〜2泊
- 乳がん・卵巣嚢腫・前立腺肥大症
- 1〜3泊
- 子宮筋腫
- 1~4泊
- 胆石症 骨盤臓器脱
- 2泊
- 減量・糖尿病外科(袖状胃切除術)
- 3〜4泊
四谷メディカルキューブの取り組み
当院では、手術後の回復を促進して早期に通常の状態に戻れるように、不要または根拠に乏しい医療行為を行わない手術全体の管理を目指しています。これは、1990年代より北欧を中心に始まった、新たな周術期管理方法である術後回復能力強化プログラム(ERAS)という概念に則っています。手術前の絶飲食、下剤、尿道カテーテルや胃管の使用、術後の安静といった慣習的なケアを科学的根拠に基づいて見直し、再構築したものです。
患者さまが手術後のつらいこととして、「痛いこと」「動けないこと」「食べられないこと」の3つの苦痛があるといわれていますが、術後回復能力強化プログラムでは、なるべく日常生活に近い状態を維持したまま快適な入院生活が送れるよう、一人ひとりに合わせた入院手術管理を実践しています。
手術前
- 麻酔科外来で手術や麻酔の説明をします
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麻酔科専門医が患者さまの不安や疑問などをあらかじめお伺いして、ご要望にもできるだけ対応するようにしています。特に女性は、これまでの手術経験やSNSの情報などから術後嘔気嘔吐への不安を持っていることが多いですが、個々に合わせて対応方法を検討していきます。例えば、パニック障害をお持ちの方には、緊張を和らげる方法を一緒に考えます。
安全に手術を行うために、お薬手帳で内服薬の継続可否も確認しています。
- 絶飲食時間を短縮し、下剤なしで手術当日に来院していただきます
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絶飲食時間をできるだけ短縮するために、一部の手術を除いて、食事は前日の23時まで、水分摂取は手術の2~3時間前まで可能としています。水分は、点滴と成分が近い経口補水液をおすすめしています。
下剤を常用している方や一部の手術を除いて、手術前の下剤による処置は消化管粘膜壁の障害や脱水を引き起こすため、基本的には行っていません。
手術中
- 身体に負担の少ない手術へのこだわり
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- 執刀医は、可能な限り創を小さくして低侵襲手術とすることに力を入れています。
創を小さくするということは、きずそのものが小さいというだけでなく、全身への負担を減らすことが術後の早期回復につながる、という大きな利点があります。 - 当院では不要な排液ドレーンや胃管、尿道カテーテルを留置しないようにしています。
管があると、不快感が増すだけでなく、感染の原因にもなり、早期回復を妨げます。 - 手術後の嘔気嘔吐を軽減できるよう、予防的な対策に努めています。
手術中から効果の高い薬をいくつか組み合わせた制吐薬を投与し、吐き気が起こりにくい麻酔方法を用いた対策をしています。 - 多角的鎮痛アプローチに取り組んでいます。
手術後の痛みが小さくなるよう、硬膜外麻酔や末梢神経ブロックなどの区域麻酔も積極的に活用しています。さらに必要に応じて持続静脈内麻酔(ivPCA)による鎮痛薬の持続投与も行っています。 - 短時間作用性麻酔薬を使用しています。
全身麻酔では、覚醒の早い麻酔薬を選択しています。 - 手術中の体温管理を徹底しています。
手術後の寒気によるふるえなどにも注意して、しっかり保温するよう努めています。
「すっきり目覚めて痛みがない麻酔」が理想です。
- 執刀医は、可能な限り創を小さくして低侵襲手術とすることに力を入れています。
手術後
- 早期離床と早期飲食を促進しています
- 一部の手術を除いて、手術後数時間で歩行を開始します。飲水は、手術後2~3時間で可能となり、ほとんどが当日から食事も始まります。「早く動き始め、早く食べ始める」ことで、身体が本来持つ生理機能が維持され、早期回復へつながります。手術部位への悪影響はなく、安全も実証されています。
- 手術後の痛みと吐き気の軽減に努めています
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手術中から鎮痛対策を継続して行っていきます。痛みが少ないと、ストレスなく動いたり、食べたりすることができます。つらい痛みになってからの対策ではなく、鎮痛薬を定時内服するなどの工夫をしています。
手術後に嘔気がある場合は、いくつかの制吐薬を組み合わせて積極的に対策しています。
- 短期入院を実現しています
- 入院期間が短くても、再入院や再手術となることは非常に少なく(長期入院と比べても成績に差はない)、安全性は担保されています。週末に手術をして、週明けから仕事に復帰したい、そんなニーズにも応えています。
教育・啓発活動
主な論文
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1.白石としえ:Gastric Fluid Volume Change After Oral Rehydration Solution Intake in Morbidly Obese and Normal Controls: A Magnetic Resonance Imaging-Based Analysis Anesth Analg.2017 Apr;124(4):1174-1178
本内容は、肥満患者に対する術前飲水に関する指針として、米国麻酔科学会のガイドラインに採用されています。 -
2.白石としえ:術前肥満症例に対する術前環境の適正化 外科と代謝・栄養 56巻5号 page185-189 (2021.10.1)
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3.白石としえ:術後の回復を加速する周術期管理の新しい考え方ー術後回復促進プログラムの実践 日本医師会雑誌 第152巻 第2号 page169-173 (2023.05.1)
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4.白石としえ:都市型クリニックのERAS実践ー19床で年間3000件の手術を行うために 外科と代謝・栄養58巻5号 page176-183 (2024.05.15)
講演
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1.白石としえ:都市型クリニックのERAS 経口補水療法の実際 第40回日本栄養治療学会学術集会(2025.2.15)
四谷メディカルキューブだからできるチーム医療
19床の病床を備えた小規模医療施設だからこそ実現できた麻酔科医、執刀医、看護師、薬剤師、管理栄養士から構成されたワンチームの体制です。手術はよくオーケストラに例えられます。指揮者は麻酔科医で、コンサートマスターが各診療科の執刀医、看護師などのスタッフが団員です。各々の技術が高くても、バラバラでは美しいアンサンブルになりません。麻酔科医のタクトにあわせてワンチームとなって音楽を奏でることが重要です。当院は、術後早期回復強化(ERAS)を積極的に実践し、患者様が中心の医療となるよう、日々努力を重ねています。