鼠径部ヘルニアは、鼠径部(太ももの付け根部分)に発生するヘルニアで、手術が唯一の治療法です。自然に治ることはなく、放置すると症状が進行し、不快感や見た目の悪さ、さらには嵌頓(かんとん)のリスクが高まるため、早めの受診が大切です。
本記事では、鼠径部ヘルニアの原因や症状、なりやすい人の特徴、検査方法、手術の流れなどを解説します。
四谷メディカルキューブでは、日本ヘルニア学会の評議員を務める今村清隆医師が診察から手術までを担当し、国内外の最新知見を取り入れた治療を提供しています。腹腔鏡を用いた手術の実施率は92%で、体に負担の少ない低侵襲手術を行っています。また、女性の鼠径部ヘルニア治療(全体の14%)や、他院での再発例の治療実績も豊富です。
手術は日帰りまたは短期入院(完全個室対応)で、早期退院を希望される方にも、じっくり療養されたい方にも対応可能です。担当医へのメール相談が可能で、土曜・祝日の手術にも対応しています。
1. 鼠径部ヘルニア(脱腸)とは
鼠径部ヘルニアとは、太ももの付け根の部分で腸や腹膜の一部がお腹の中から外に向かって突出してしまう病気です。「ヘルニア」という言葉はラテン語で「脱出」を意味し、鼠径部ヘルニアに関する最も古い記録は、紀元前1550年頃の古代エジプトにまで遡るとされています。一般的には「脱腸」と呼ばれるため、聞いたことがある方も多いかもしれません。

2. 鼠径部ヘルニアの原因
私たちの体は、立っているときや、咳、排便などの動作によって、常にお腹を支える筋肉や組織などの構造物に内側から外側へ圧力がかかっています。鼠径部ヘルニアの主な原因は、腹部にある筋肉の弱さと鼠径部への過度の圧力です。筋肉が弱くなると、腸管や脂肪などが筋肉の隙間から突出する可能性があります。また、重い物を持ち上げる動作や長時間の立ち仕事など、鼠径部に頻繁な圧力がかかる活動もリスクの1つです。さらに、咳が頻繁に続く場合や慢性的な便秘も鼠径部ヘルニアを引き起こす原因となることがあります。
お腹にできるヘルニアのうち、足の付け根である鼠径部に発生する「鼠径部ヘルニア」は、全体の約75%を占めると言われています。
よくある質問に、「脱腸は子どもの病気ではないのですか?」というものがあります。確かに、幼少期に鼠径部ヘルニアの手術を受けるお子さんは多く、小児の鼠径部ヘルニアは主に先天的な要因によって発生するのが特徴です。一方で、成人の鼠径部ヘルニアは加齢による筋肉や組織の衰えが影響し、後天的な要因で発生することが多いと考えられています。
3. 鼠径部ヘルニアの種類
鼠径部ヘルニアは、ヘルニアが出てくる場所によって、主に以下の3種類に分類されます。
①外鼠径部ヘルニア
鼠径部の外側にある腹壁の筋肉が弱くなることで、腸が突出します。最も多いタイプであり、男性の場合は、陰嚢まで大きくなることがあります。また、前立腺がんの全摘出術を受けた方の約10%に出現します。
②内鼠径部ヘルニア
恥骨の上にある腹壁の筋肉が弱くなると腸が突出します。両側に発症することもあり、検査をすると腸ではなく膀胱が出ている方もいます。
③大腿ヘルニア
鼠径部の下側にある腹壁の筋肉が弱くなることで、腸が突出します。骨盤が広い女性に多くみられるヘルニアです。穴が狭く、一度腸が出ると元に戻りにくく、「嵌頓(かんとん)」と呼ばれる状態になりやすいのが特徴です。嵌頓が起こると、緊急手術が必要になることがあります。

4. 鼠径部ヘルニアの症状
<症状>
- 立位で膨隆がみられ、仰向けの状態では膨隆が消失する
- 長時間の歩行や立位で違和感や痛みが感じられる
<嵌頓(かんとん)について>
鼠径部ヘルニアを放置すると、症状が重くなり、危険な状態に進行します。少しずつ膨らみが硬化してしまい、指で押さえても戻らなくなります。強い腹痛や嘔吐などを伴うことがあります。これを嵌頓(かんとん)と呼びます。嵌頓すると、腸管が血流障害や壊死(えし)を起こす絞扼(こうやく)を伴い、緊急手術が必要になることもあります。そのため、嵌頓する前に手術を受けることをおすすめします。

5. 鼠径部ヘルニアの発症率
世界中で、年間約2000万件もの鼠径部ヘルニア手術が行われているとされています。男性では、生涯において27~43%、女性では3~6%の割合で発生する、非常にありふれた疾患です。
6. 鼠径部ヘルニアになりやすい人
鼠径部ヘルニアは特に男性に多いものの、女性では、大腿ヘルニアが比較的多くみられます。
また、鼠径部ヘルニアは、お腹に力がかかる動作や生活習慣が影響し、発症しやすくなります。以下のような方は、リスクが高いとされています。
- 力仕事や立ち仕事をする方
- 過度な運動をする方
- 便秘症の方
- 前立腺手術後の方
- 咳をよくする方
これらの要因に当てはまる方は、違和感を感じた際には早めに医師の診察を受けることをおすすめします。
7. 鼠径部ヘルニアの診断・検査
基本的には問診と視診、触診によって診断が行われます。多くの場合は、これらの検査だけで診断が確定しますが、必要に応じてCT検査や超音波(エコー)検査などの画像検査を追加することがあります。
CT検査では、ヘルニアの突出がわかりやすいように、うつ伏せの姿勢になっていただき、撮影を行います。この方法により、小さなヘルニアや診察では発見しにくいヘルニアを見つけることができます。女性の診察の際には、女性の看護師が付き添うようにします。
鼠径部が膨らんだり痛くなったりする他の疾患も多く存在し、これらとの鑑別が必要です。
【鼠径部が腫れる他の代表的な疾患】
- 鼠径部リンパ節腫脹(細菌・ウイルス感染、結核、性感染症〈梅毒・鼠径部肉芽腫・リンパ肉芽腫症など〉)
- 鼠径部蜂窩織炎
- アテローム(粉瘤)の感染・膿瘍形成
- 鼠径部膿瘍
- ヌック管嚢腫(女性)
- 精索水瘤(男性)
- 停留精巣(外鼠径部ヘルニアとの鑑別が必要)
- 大腿動脈瘤・仮性動脈瘤
- 脂肪腫
- 悪性リンパ腫
- 転移性リンパ節腫脹(消化器・婦人科・泌尿器系悪性腫瘍など)
- 鼠径部筋膜炎(スポーツヘルニア)

8. 鼠径部ヘルニアの手術方法
鼠径部ヘルニアの根本的な治療は手術です。日本では年間16万人の患者さまが手術を受けられています。症状が軽度な方は経過観察で対応することも可能ですが、経過観察を行った場合、5年以内に70%の患者さまに症状が現れ、その後手術を希望するという報告もあります。
*当院では、最新の国際的な鼠径部ヘルニアガイドライン(Update of the international HerniaSurge guide-lines for groin hernia management. BJS Open 2023など) に沿って治療を行っています。
当院では、突出した腸管を元の場所に戻し、メッシュ(人工膜)を使用してヘルニア門を閉鎖する手術を行っています。術式は、ポートと呼ばれる筒を用いてカメラや手術器具を体内に入れ、3ヶ所の小さい創で行う腹腔鏡手術を第一選択としています。
ただし、前立腺手術の既往がある方や、心肺機能の面で全身麻酔に耐えられない方には、鼠径部を4~5cmほど切開する鼠径部切開法を行うこともあります。また腹腔鏡手術で開始しても、癒着等で剥離が困難と判断された場合には鼠径部切開法に変更いたします。
腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術
手術方法
5mmまたは10mmほど切開したおへそ(臍)から腹腔鏡(カメラ)を挿入し、二酸化炭素で腹腔内を広げたのちに鼠径部を観察します。さらにおへそから8cmほど離れた左右に5mm程度の切開をし、2つの鉗子を用いて腹腔内から鼠径部へアプローチします。
鼠径部の腹膜を剥離してから突出した腸管を元の場所へ戻し、開いたヘルニア門を15✕10cmほどの大きいメッシュで閉鎖します。正しい層で剥離し、なるべくメッシュを強く固定しないことで、手術後の再発や疼痛の軽減を目指しています。


特長
- 鼠径部を一望できるため、さまざまなタイプのヘルニアに対応
- 高解像度4Kカメラを使用して拡大視で手術を行うため、出血や神経損傷が少なく済む
- 外科手術用次世代内視鏡ホルダロボットIvyA1®を用いて、安定した術野で手術が可能
- 両側に鼠径部ヘルニアがある場合にも、3ヶ所の小さい創で同時に修復ができる
- 入院期間は日帰りまたは1泊2日で、日常生活への早期復帰が可能
- 手術後の疼痛が少ない
- 再発リスクは1%以下
鼠径部切開法
手術方法
膨らんでいる方の鼠径部を4~5cmほど切開して、直接患部(ヘルニア)をみながら手術を行います。突出した腸管を元の場所へ戻し、開いたヘルニア門をメッシュで閉鎖します。
特長
- 過去に前立腺手術を受けられた方や、心肺機能に異常がある方へ選択される手術
- 腹腔内の癒着に影響されることなく行える
- 入院期間は日帰りまたは1泊2日
9. 鼠径部ヘルニアの診療の流れ
当院の基本的な診療の流れをご紹介します。

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- 初診
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診察を行い、手術に必要な検査(採血、採尿、心電図、胸部X線検査)を実施します。必要に応じて、心臓超音波検査、呼吸機能検査、腹部超音波検査、CT検査を追加することがあります。(これらの検査は、次回の外来時に実施する場合もあります。)
検査結果をもとに、治療方法をご提案し、手術日を決定します。
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- 2回目外来
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担当医師が、手術の内容や合併症のリスクについて詳しくご説明します。
また、麻酔科医師より麻酔方法についての説明を行います。
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- 入院・手術
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手術当日に入院していただきます。
通常、手術時間は片側の場合で約1~2時間、両側の場合で約2~3時間です。(麻酔の準備や術後の覚醒時間を除きます。) 麻酔科による神経ブロックを行いますので、術後の疼痛が非常に軽いことが期待できます。
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- 手術後のフォローアップ
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手術後1~3週間後に外来診察を行い、異常がなければ治療終了となります。抜糸は必要ありません。
万が一、異常が認められた場合は、外来での経過観察を継続いたします。

10. 入院スケジュール
当院では、日帰り治療または1泊2日の短期入院で鼠径部ヘルニアの腹腔鏡手術を実施しています。お仕事が忙しく休みが取りづらい方や育児・介護で家を空けられない方にも安心して治療を受けていただけるよう、体への負担を最小限に抑え、術後の早期回復に努めています。ご希望に応じて、土曜日・祝日での手術も行っております。

入院後の回復力を高める取り組み
- 手術前処置はありません。
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下剤・浣腸・術前点滴の使用を控え、ストレスフリーで歩いて手術室に入室します。
可能な限り、尿道カテーテルは入れないようにしています。
腹腔鏡下修復術の場合、手術前の剃毛は必要ありません。

- 手術後の痛みと吐き気の軽減に努めています。
- 鎮痛薬による積極的な疼痛管理と国際的ガイドライン推奨の薬による嘔気対策を実施しています。

- 手術当日から食事を開始します。
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午前中に手術をする場合は、昼食(14時頃)から経口摂取が可能となり、夕方(15時~16時頃)には帰宅できます。
午後に手術をする場合は、夕食(18時頃)から経口摂取が可能です。
入院中はフランス料理の巨匠 三國清三シェフ監修の院内レストラン「ミクニマンスール」で調理した食事を自室にてお召し上がりいただけます。

- 手術翌日からシャワー浴ができます。
- 普段と変わらない生活に向けて全身の回復を促します。入院の場合、シャワー・トイレ付きの個室で、周囲に気兼ねなく、静かな環境の中で過ごすことができます。

11. 鼠径部ヘルニアの手術費用
健康保険の適用となります。3割負担の場合のおおよその目安です。
- 腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術
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140,000~150,000円
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※両側の場合も同じ費用です。
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- 鼠径部切開法
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80,000~90,000円
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※両側の場合は、100,000~120,000円になります。
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※高額療養費制度の対象となります。所得によって決められた自己負担限度額を超えた分が払い戻されます。入院会計時に「限度額認定証」をご提出いただくと、医療費請求額を自己負担限度額までの金額に留めることができ、医療費の負担を抑えることができます。