鼠径ヘルニア(脱腸)とは
鼠径ヘルニアとは、太ももの付け根の部分から、腸や腹膜の一部がお腹の中から外に向かって突出する病気です。このことを、一般的に「脱腸」とも言います。主に、体の組織が弱くなることで発症します。

鼠径ヘルニア(脱腸)の種類
鼠径ヘルニアは、主に以下の3種類に分類されます。
①外鼠径ヘルニア
鼠径部の外側にある腹壁の筋肉が弱くなることで、腸が突出します。最も多いタイプであり、男性の場合は、陰嚢まで大きくなることがあります。前立腺癌の全摘出術後の約10%の患者さまに出現します。
②内鼠径ヘルニア
恥骨の上にある腹壁の筋肉が弱くなると腸が突出します。両側に発症することもあります。
③大腿ヘルニア
鼠径部の下側にある腹壁の筋肉が弱くなり、腸が突出します。骨盤が広い女性に多いヘルニアです。

鼠径ヘルニア(脱腸)の症状
症状
- 立位で膨隆がみられ、仰向けの状態では膨隆が消失する
- 長時間の歩行や立位で違和感や痛みが感じられる
嵌頓(かんとん)について
鼠径ヘルニアを放置すると、症状が重くなり危険な状態に進行します。少しずつ膨らみが硬化してしまい、指で押さえても戻らなくなります。これを嵌頓(かんとん)といいます。嵌頓すると、腸管が血流障害や壊死(えし)を起こす絞扼(こうやく)を伴い、緊急手術が必要になることもあります。

鼠径ヘルニア(脱腸)の原因
鼠径ヘルニアの主な原因は、腹部にある筋肉の弱さと鼠径部への過度の圧力です。筋肉が弱くなると、腸管や脂肪などが筋肉の隙間から突出する可能性があります。また、重い物の持ち上げや長時間の立ち仕事など、鼠径部に頻繁な圧力がかかる活動もリスクの1つです。また、咳が頻繁に続く場合や、慢性的な便秘も鼠径ヘルニアを引き起こす原因となることがあります。
鼠径ヘルニア(脱腸)の診断・検査
基本的には問診と視診、触診で診断します。
必要に応じて、CT検査や超音波(エコー)検査などの画像検査を追加します。
CT検査では、ヘルニアの突出がわかりやすいように、うつ伏せの姿勢になっていただき、撮影を行います。この方法で、小さなヘルニアや診察では見つけにくいヘルニアも見つけることができます。

鼠径ヘルニア(脱腸)の治療法
鼠径ヘルニアの根本的な治療は、手術です。日本では年間16万人の患者さまが手術を受けられています。
当院では、突出した腸管を元に戻し、メッシュ(人工膜)を使用してヘルニア門を閉鎖する手術を行っています。術式は、ポートと呼ばれる筒を用いてカメラや手術器具を体内に入れ、3ヶ所の小さい創で行う腹腔鏡手術を第一選択としています。
ただし、前立腺手術の既往がある方や、心肺機能の面で全身麻酔に耐えられない方には、鼠径部を4~5cmほど切開する鼠径部切開法を行うこともあります。また腹腔鏡手術で開始しても、癒着等で剥離が困難と判断された場合には鼠径部切開法に変更いたします。
腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術
手術方法
5mmまたは10mmほど切開したおへそ(臍)から腹腔鏡(カメラ)を挿入し、二酸化炭素で腹腔内を広げたのちに鼠径部を観察します。さらにおへそから8cmほど離れた左右に5mm程度の切開をし、2つの鉗子を用いて腹腔内から鼠径部へアプローチします。
鼠径部の腹膜を剥離してから突出した腸管を元の場所へ戻し、開いたヘルニア門を15✕10cmほどの大きいメッシュで閉鎖します。正しい層で剥離し、なるべくメッシュを強く固定しないことで、手術後の再発や疼痛の軽減を目指しています。


特長
- 鼠径部を一望できるため、さまざまなタイプのヘルニアに対応
- 高解像度4Kカメラを使用して拡大視で手術を行うため、出血や神経損傷が少なく済む
- 外科手術用次世代内視鏡ホルダロボットIvyA1®を用いて、安定した術野で手術が可能
- 両側に鼠径ヘルニアがある場合にも、3ヶ所の小さい創で同時に修復ができる
- 入院期間は日帰りもしくは1泊2日と日常生活に早期に回復できる
- 手術後の疼痛が少ない
- 再発リスクは1%以下
鼠径部切開法
手術方法
膨らんでいる方の鼠径部を4~5cmほど切開して、直接患部(ヘルニア)をみながら手術を行います。突出した腸管を元の場所へ戻し、開いたヘルニア門をメッシュで閉鎖します。
特長
- 過去に前立腺手術を受けられた方、心肺機能に異常がある方へ選択される手術
- 腹腔内の癒着に影響されることなく行える
- 入院期間は1泊2日
手術までの流れ

-
- 初診
-
診察をして、手術を行うために必要な検査(採血、採尿、心電図検査、胸部X線検査)を行います。必要に応じて、心臓超音波検査や呼吸機能検査、腹部超音波検査、CT検査を行うことがあります(次回の外来で検査を行う場合もあります。)
検査結果をもとに、患者さまにとって最適な治療方法をご提案させていただき、手術日を決定いたします。
-
- 2回目外来
-
担当医師より、手術や手術に伴う合併症などについて詳しくご説明いたします。
また、麻酔科医師から麻酔方法などについて説明をさせていただきます。
-
- 入院・手術
-
手術当日に入院していただきます。
通常、手術時間は、片側であれば約1~2時間、両側であれば2~3時間(麻酔の準備と術後の覚醒時間を除きます)程度です。
-
- 手術後のフォローアップ
-
手術後1~3週間後に外来診察にて異常がなければ治療終了となります。抜糸は必要ありません。
何か異常があれば外来を継続いたします。

入院スケジュール

入院後の回復力を高める取り組み
- 手術前処置はありません。
-
下剤・浣腸・術前点滴の使用を控え、ストレスフリーで歩いて手術室に入室します。
可能な限り、尿道カテーテルは入れないようにしています。
腹腔鏡下修復術の場合、手術前の剃毛は必要ありません。

- 手術後の痛みと吐き気の軽減に努めています。
- 鎮痛薬による積極的な疼痛管理と国際的ガイドライン推奨の薬による嘔気対策を実施しています。

- 手術当日から食事を開始します。
-
午前中に手術をする場合は、昼食(14時頃)から経口摂取が可能となり、夕方(16時~17時頃)には帰宅できます。
午後に手術をする場合は、夕食(18時頃)から経口摂取が可能です。
入院中はフランス料理の巨匠 三國清三シェフ監修の院内レストラン「ミクニマンスール」で調理した食事を自室にてお召し上がりいただけます。

- 手術翌日からシャワー浴ができます。
- 普段と変わらない生活に向けて全身の回復を促します。入院の場合、シャワー・トイレ付きの個室で、周囲に気兼ねなく、静かな環境の中で過ごすことができます。

手術費用
健康保険の適用となります。3割負担の場合のおおよその目安です。
- 腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術
-
140,000~150,000円
-
※両側の場合も同じ費用です。
-
- 鼠径部切開法
-
80,000~90,000円
-
※両側の場合は、100,000~120,000円になります。
-
-
※高額療養費制度の対象となります。所得によって決められた自己負担限度額を超えた分が払い戻されます。入院会計時に「限度額認定証」をご提出いただくと、医療費請求額を自己負担限度額までの金額に留めることができ、医療費の負担を抑えることができます。