卵巣嚢腫とは
卵巣は子宮の左右にあり、月経がある方では親指くらいの大きさですが、大きく腫れた状態を卵巣腫瘍といいます。腫瘍の中に液体が溜まる嚢胞性卵巣腫瘍(卵巣嚢腫)と硬い塊が大きくなる充実性卵巣腫瘍の2つに分かれます。
卵巣腫瘍の8~9割は液体が溜まる卵巣嚢腫であり、卵巣嚢腫は以下の4つに分類されます。

分類 | 詳細 |
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漿液性嚢胞腺腫 | サラサラとした水っぽい液体が溜まる卵巣嚢腫で、まれにがん化することがあります。 |
粘液性嚢胞腺腫 | ネバネバ、ドロドロとしたとろみのある液体が溜まる卵巣嚢腫で、まれにがん化することがあります。 |
成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫、デルモイド) | 10代の方でも発症することがあり、内部には皮膚組織、脂肪、毛髪、骨など、さまざまな成分を含みます。まれにがん化することがあります。 4つの卵巣嚢腫の中でも比較的多いタイプです。 |
チョコレート嚢胞(子宮内膜症による) | 子宮内膜症が卵巣にできて起こるものです。中身は茶色のドロドロとした液体であるため、チョコレート嚢胞と呼ばれています。まれにがん化することがあります。 |
卵巣嚢腫と診断されても、時間の経過とともに消えてしまうこともあり、それらは総じて「機能性卵巣嚢胞」と呼ばれています。
機能性卵巣嚢胞は排卵などのホルモン周期に関連することが多く、一度の診察では判断せず、時期をずらして確認することで本物の卵巣嚢腫かを見極める必要があります。
充実性卵巣腫瘍は卵巣腫瘍の1~2割にあたり、良性・境界悪性・悪性(卵巣がん)と細かく分類されます。

症状について
卵巣嚢腫が小さいうちは症状もなく、沈黙の病気と呼ばれることもあります。
月経も順調で、妊娠して初めて発見されることも珍しくありません。
卵巣嚢腫は20~30cmほどにも大きくなることもあり、お腹の張りなどの症状から見つかることもあります。
大きくなる過程で卵巣嚢腫が破裂したり、お腹の中でねじれてしまったり(捻転)して、突然の強い下腹部痛に襲われ、緊急受診を必要とすることもあります。
子宮内膜症によるチョコレート嚢胞は小さくても月経困難症などの症状が出ることがありますが、その他の卵巣嚢腫は発見されにくいため、定期的な婦人科の受診をおすすめしています。
妊娠してから見つかると対応が難しくなることもありますので、妊娠をご希望される段階で検査を受けることをおすすめします。
原因について
卵巣嚢腫や充実性卵巣腫瘍の原因ははっきりわかっていません。
時に遺伝性の場合もありますが、全てではありません。
また、チョコレート嚢胞以外の卵巣嚢腫には治療薬もありませんので、経過観察を行いながら、必要に応じて手術が行われます。
診断に用いる検査
多くは婦人科の超音波検査にて診断しますが、腫瘍が大きすぎると、超音波検査では判断できなくなることもあります。
また、超音波検査のみでは見つかりづらいこともあるため、健康診断を受けていても見逃されてしまうこともあります。
婦人科の病気の診断にはMRI検査が有用であり、卵巣嚢腫もMRI検査で大きさ、状態、悪性の可能性などについて診断します。
また必要に応じてCT検査を行い、上腹部まで確認することもあります。
悪性の可能性がある場合は、血液検査にて腫瘍マーカー(CA125・CA19-9・HE4など)を計測することもあります。
良性・境界悪性・悪性の判断は最終的に摘出して病理組織検査(顕微鏡検査)で確定させるのが一般的です。
良性か悪性かを見極めるためにも手術が必要なことがあります。
治療法の実際
子宮内膜症によるチョコレート嚢胞はホルモン療法が有用ですが、それ以外の卵巣嚢腫や充実性卵巣腫瘍には薬がありません。
腫瘍の小さいうちは経過観察となりますが、4~6cmを超える状況になった場合は、将来的な破裂や捻転の可能性が高くなるため、手術を検討します。実際に破裂や捻転をした時には当日に緊急手術を必要とすることもあります。
またこの他にも、不妊症の方や将来妊娠を希望される方、境界悪性・悪性(卵巣がん)の疑いがある時などに手術を検討します。
手術は卵巣嚢腫のみ摘出する温存手術と片方または両方の付属器(卵巣・卵管)を摘出する根治手術の2つがあります。
卵巣嚢腫の大きさや病状、年齢、悪性の可能性、妊娠のご希望の有無などを患者さまに伺いながら、できる限り希望に沿った治療を行っていきます。
当院は全ての手術を低侵襲の腹腔鏡手術で行っています。
腹腔鏡手術は細いカメラをお腹の中に入れて、高精細なカメラで見ながら細かい手術を可能とします。
患者さまにとっても負担が少なく、メリットの大きい手術方法です。
また、可能な場合にはお腹にきずをつけないvNOTES手術も行っておりますので、お気軽にご相談ください。
腟式腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術(vNOTES-C)
- 卵巣・卵管を温存
- 経腟的腹腔鏡手術
お腹にきずのできない腹腔鏡手術です。
腟の一番奥に小さい穴をあけ、腹腔鏡や器具を挿入して行う手術です。卵巣嚢腫も膣から取り出します。
正常な卵巣を温存することが可能です。
術後の妊孕性に配慮した手法となり、不妊症の方などには同時に卵管の通過性を確認する通水テストも行っております。
術後の痛みも少なく、早期で社会復帰が可能です。保険適用で実施できます。
膣からの手術ですが、術後には自然妊娠も経膣分娩も可能です。


腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術(TLC)
- 卵巣・卵管を温存
- 腹腔鏡手術
お腹の2~4ヶ所に5~10mmほどのきずをつけて、腹腔鏡や器具を挿入し、小さなきずから腫瘍部分である卵巣嚢腫を摘出します。正常な卵巣を温存することが可能です。
子宮内膜症でよくおこる癒着などには、癒着剥離も行います。
また、術後の妊孕性に配慮した手法となり、不妊症の方などには同時に卵管の通過性を確認する通水テストも行っております。


腟式腹腔鏡下付属器切除術(vNOTES-SO)
- 卵巣・卵管を摘出
- 経腟的腹腔鏡手術
お腹にきずのできない腹腔鏡手術です。
腟の一番奥に小さい穴をあけ、腹腔鏡や器具を挿入して行う手術です。腫瘍も膣から取り出します。
術後の痛みも少なく、早期社会復帰が可能です。保険適用で実施できます。


腹腔鏡下付属器切除術(TLSO)
- 卵巣・卵管を摘出
- 腹腔鏡手術
お腹の2~4ヶ所に5~10mmほどのきずをつけて、腹腔鏡や器具を挿入して行う手術です。卵巣及び卵管を摘出し、小さなきずから体腔外へ搬出します。
当院では大きい卵巣腫瘍に対してもできる限り腹腔鏡手術で行っております。


手術までの流れ

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- 初診
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初診時には一般的に超音波検査を用いて骨盤内の状態を確認します。
良性疾患のため、患者さまの症状やご希望に合わせて、治療法をご提案させていただきます。
手術療法が必要となった場合は、手術日を決定します。
月経周期の調整は必要なく、手術日と月経が重なっても問題なく手術は行えます。
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- 検査
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必要に応じて、MRI検査を行うことがあります。他医療機関で検査を行っている場合には画像データをご持参ください。
また、麻酔をかける上で必要となる血液検査、胸部レントゲン検査、心電図検査なども行います。(初診日に手術日が決まった場合、これらの検査も同日に実施することが可能です。)
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- インフォームドコンセント
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手術に関して、じっくり時間をかけてご説明いたします。
ご希望があれば、ご家族やパートナーの方に同席していただくことも可能です。
手術について不明な点やご不安な点がありましたら、その都度ご質問ください。
また、その後、麻酔科専門医による全身麻酔の説明もあります。
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- 入院・手術
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手術当日にご来院いただきます。
お付き添いの方がいらっしゃる場合は、手術終了後の医師の説明までお待ちいただくことになります。術後の説明の後、患者さまと面会可能となります。
手術時間は60分程度で、入院期間は3泊4日となります。

入院スケジュール

手術後の回復力を高める入院生活
- 手術前処置はありません。
- 下剤・浣腸・術前点滴の使用を控え、ストレスフリーで歩いて手術室に入室します。

- 手術後の痛みと吐き気の軽減に努めています。
- 持続硬膜外麻酔(写真)を使用した疼痛管理と国際的ガイドライン推奨の薬による嘔気対策を実施しています。

- 手術翌日から食事を開始します。
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手術翌日の朝食から経口摂取が可能となります。
入院中はフランス料理の巨匠 三國清三シェフ監修の院内レストラン「ミクニマンスール」で調理した食事を自室にてお召し上がりいただけます。

- 手術翌日からシャワー浴ができます。
- シャワー・トイレ付きの個室で、普段と変わらない生活に向けて全身の回復を促します。

手術費用について(概算)
健康保険の適用となります。3割負担の場合のおおよその目安です。
160,000~180,000円
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※高額療養費制度の対象となります。所得によって決められた自己負担限度額を超えた分が払い戻されます。加入している健康保険証の発行元に事前申請を行い、交付された「限度額認定証」を退院までにご提出いただくと、医療費請求額を自己負担限度額までの金額にとどめることができ、医療費の窓口負担を抑えることができます。
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※差額室をご利用の場合は別途となります。