セミナーレポート|正しく知ろう!人間ドック・がん検診の上手な受け方

2024年7月20日、四谷メディカルキューブでは「正しく知ろう!人間ドック・がん検診の上手な受け方」と題したセミナーを開催しました。
このセミナーは、日本人間ドック・予防医療学会が制定した「人間ドックの日」(7月12日)に合わせて実施したもので、人間ドックやがん検診に関する正しい知識を深め、効果的に活用していただけることを目的としています。
講師を務めたのは、四谷メディカルキューブ 理事長 兼 健診センター長 安田聖栄医師です。安田医師は、20年以上にわたって人間ドックに携わり、PET/CT検査による腫瘍診断のスペシャリストとして知られています。セミナーでは、「健診」・「検診」と「人間ドック」の違いやそれぞれの検査が果たす役割について、わかりやすく解説いたしました。
目次
講師プロフィール

四谷メディカルキューブ 理事長・健診センター長
東海大学医学部客員教授
安田 聖栄 医師
1977年 大阪大学医学部卒業
1993年 米・テネシー大学メディカルセンターに留学。帰国後、山中湖クリニック腫瘍部長に就任
2005年 四谷メディカルキューブ副院長に就任
2008年 東海大学医学部消化器外科教授、附属病院副院長に就任
2016年から現職に就き、東海大学医学部客員教授も務める。
著書
「最新のがん検診がわかる本」株式会社法研(2006年)
「一般診療医のためのPET画像の見かた」金原出版株式会社(2015年)
「エッセンシャル医療安全」金原出版株式会社(2015年)
「がんのPET検査が分かる本」株式会社法研(2015年)
「初期診療review」金原出版株式会社(2018年)
「診療で必ず役立つビタミンの知識」日本医事新報社(2021年)
健診・検診と人間ドックの違い
「健診」「検診」「人間ドック」という用語に厳密な定義はありません。
呼称 | 本来の意味 | 例 |
---|---|---|
健診 | 健康状態のチェック | 職場での健康診断 |
検診 | 特定疾患の検査 | がん検診、乳がん検診など |
人間ドック | (宿泊しての)精密検査 | 脳ドック |
「健診」は「健康診断」の略称で、現在の健康状態を確認するための比較的簡単な検査です。職場で実施される健康診断がその代表例です。
一方、「検診」は、特定の病気を早期発見するための検査です。特に、厚生労働省が推奨する5大がん(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん)検診がその例です。
さらに、「人間ドック」は、無症状の疾患や将来的な疾患リスクの早期発見を含め、健康状態を詳しく調べるための検査です。かつては短期入院による検査を言いましたが、現在では日帰りでも実施されています。
生活習慣病の発見に役立つ「健康診断」
健康診断は、肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病など、生活習慣病の早期発見に重要な役割を果たします。
肥満になると、ホルモンの影響で血糖値が下がりにくくなったり、血圧が上昇したりすることがあります。高血圧が進行すると、頭痛や嘔吐といった症状が現れ、場合によっては救急受診が必要になることもあります。慢性的な高血圧に気づかずに放置すると、心臓が肥大して腎臓に障害が生じたり、眼底出血を引き起こしたりする可能性があります。
脂質異常症は、LDLコレステロールやHDLコレステロール、中性脂肪の数値に異常が見られる状態であり、動脈硬化を引き起こしやすくなります。動脈硬化が進行すると、心臓や脳の血管が硬く細くなり、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすリスクが高まります。
生活習慣病は、動脈硬化の進行要因となるため、健康診断による早期発見と予防が不可欠です。検査項目には重要な血液検査が含まれているため、必ず受診するようにしましょう。
法的には、労働安全衛生法により、事業者には従業員に対して年1回の健康診断を実施する義務があり、従業員も受診する必要があります。40歳以上になると、加入している医療保険から特定健康診査(通称:メタボ健診)の案内が届きます。これはメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の予防に特化しており、検査項目は限られているものの、職場で健康診断を受ける機会がない方には特定健康診査の活用を推奨します。
生活習慣や家族歴に応じて受けたい「人間ドック」の検査項目
人間ドックの基本的な検査には、「身体計測」「血圧測定」「血液検査」「心電図検査」「呼吸機能検査」「胸部X線検査」「腹部超音波検査」「上部消化管内視鏡検査」「尿検査・便潜血」などが一般的に含まれます。
さらに人間ドックではさまざまなオプション検査を追加することができます。
年齢・性別・生活習慣、既往歴、家族歴などに応じて、適切な検査項目を選ぶことが重要です。
健康状態や生活習慣に起因するリスクと検査項目
健康状態や生活習慣 | 推奨検査 | 検査目的 |
---|---|---|
喫煙歴がある | 肺のCT検査 | 40歳以上の方は肺がんや慢性閉鎖性肺疾患(COPD)を確認 |
飲酒量が多い | 腹部超音波検査 | 脂肪肝の有無を調べる |
閉経している | 骨密度検査 | 骨粗鬆症や骨折のリスクを評価 |
肥満気味でお腹がでている | 腹部CT検査 | 生活習慣病のリスクが高まる内臓脂肪型肥満を確認 |
高血圧である | 脳のMRI検査 | 脳出血の原因となる脳動脈瘤の有無を確認 |
がんが気になる | がん検診 | 年齢に応じたがんのリスク評価 |
人間ドックの検査項目は非常に多岐にわたり、からだの細部まで徹底的に検査できます。
これにより、通常の健康診断では見つからない初期の病気を発見できる可能性が高まります。自覚症状がない病気が発見されることも珍しくありません。とくに、がんのような進行性の病気は、早期発見により治療の選択肢が広がり、完治できる可能性も上がります。
人間ドックのもう一つの大きな特長は、検査後に医師との面談が行われる点です。検査結果をもとに自分のからだの状態や病気のリスクを理解し、必要な改善点を明確にすることができます。リスクが指摘された場合、検査結果を踏まえて生活習慣を適切に見直す良い機会となるでしょう。
また、健康や病気に対する不安がある場合、医師に直接相談できることも人間ドックの利点です。医師の豊富な知識と経験に基づくアドバイスを受けることで、今後の健康維持に役立つ情報が得られる点も大きなメリットといえます。
がん検診が重要な理由
国立がん研究センターの統計(2024年7月閲覧)によると、「日本人の2人に1人ががんになる」とされています。
たとえば、以前は胃がんが進行してから手術を行うケースも多くありましたが、現在では毎年の内視鏡検査により、症状が出る前に発見できることが増えています。早期に発見できれば、比較的簡単な内視鏡治療で対応できる場合もあります。
また、「がん罹患数の順位」や「がん死亡数の順位」の表で挙げられるがんのうち、膵臓がん以外は、検診で比較的早期に発見できるがんといえるでしょう。
がん罹患数の順位(2019年)
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | |
---|---|---|---|---|---|
男性 | 前立腺 | 大腸 | 胃 | 肺 | 肝臓 |
女性 | 乳腺 | 大腸 | 肺 | 胃 | 子宮 |
がん死亡数の順位(2022年)
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | |
---|---|---|---|---|---|
男性 | 肺 | 大腸 | 胃 | 膵臓 | 肝臓 |
女性 | 大腸 | 肺 | 膵臓 | 乳腺 | 胃 |
国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計より
国が推奨するがん検診は以下の5つであり、これらは死亡率の減少効果が確認された検査です。対象年齢に応じて、最低限これらの検診を受けることをおすすめします。
国が推奨するがん検診
がんの種類 | 推奨年齢 | 検査頻度 | 検査内容 |
---|---|---|---|
胃がん | 50歳以上 | 2年に1回 | 内視鏡検査 |
子宮頸がん | 20歳以上 | 2年に1回 | 細胞診検査 |
肺がん | 40歳以上 | 毎年 | 腹部X線検査 |
乳がん | 40歳以上 | 2年に1回 | マンモグラフィー |
大腸がん | 40歳以上 | 毎年 | 便潜血検査 |
ただし、国が推奨しているがん検診だけでは、十分とはいえません。以下の資料では、国が推奨するがん検診の感度が示されています。たとえば、大腸がん検診で用いられる便潜血検査の感度は「40~70%」とされ、正確性には限界があります。そのため、私は5年に1回、大腸内視鏡検査を受けることにしています。
国が推奨するがん検診の感度
がんの種類 | 検査方法 | 感度 |
---|---|---|
胃がん | 上部消化管内視鏡検査 | ほぼ100% |
子宮頸がん | 細胞診 | 75% |
肺がん | 胸部X線 | 77〜80% |
乳がん | マンモグラフィ | 70% |
大腸がん | 便潜血 | 40〜70% |
比較的早期の段階でがんを発見できるPET/CT検査
PET/CT検査では、糖代謝を調べるFDG(エフディージー)と呼ばれる薬剤を注射し、がんの可能性がある部分を特定します。
多くのがんを比較的早期の段階で発見できるため、がん検診として広く実施されています。
従来のがん検診(国が推奨するがん検診など)は部位(臓器)ごとに行われますが、PET/CT検査では多数の臓器を一度に検査できることが特長です。
PET/CT検査で発見できるがんは、おおよそ1cm³の大きさが目安となります。これはどの臓器においても比較的早期の段階です。ただし、数ミリのがんや体積の小さい平べったいがんは検出が困難です。
PET/CT検査で発見されるのは、がんだけではありません。がんの発見率は約1%ですが、その他にも五十肩や腎結石、甲状腺の橋本病、蓄膿症など良性の病気が約19%に見つかります。腰痛の原因がわかることもあります。50歳を過ぎてPET/CT検査を受けると、約5人に1人が何らかの指摘を受けることになります。
「からだの中に重大な病気が潜んでいないか心配なときは、まずPET/CT検査で調べてみて、問題がなければ他の検査を追加する」といった使い方も可能です。一般的には50歳を過ぎたら1~2年に1回、60歳代以降は1年に1回の検査が推奨されます。

参加者からの質問と安田医師の回答
ここからは、みなさまからの質問に対する安田医師の回答をご紹介します。
胃内視鏡検査は「口から」と「鼻から」、どちらがよいですか?
口から行う胃内視鏡検査は、スコープが太いため、鼻からのタイプに比べて視野が広く、より詳細に調べることができます。鼻からの胃内視鏡は、苦痛が少ないのが利点です。
私自身が胃内視鏡検査を受けるとしたら、麻酔を使って楽な状態で、口からの内視鏡でゆっくりと観察してもらいたいです。
近年注目されている検査には、どのようなものがありますか?
近年注目されている検査としては、サルコペニア検査と認知症のリスク検査があります。
サルコペニア検査は、筋力が極端に低下していないかを調べる検査です。
サルコペニアとは、加齢に伴う筋力低下のことで、筋肉の萎縮は25~30歳ごろから進行していきます。運動習慣がない方や、歩行が遅くなったり、階段を上るのがつらかったりする方には、サルコペニア検査がおすすめです。
また認知症検査は、アルツハイマー病などの兆候がないかを調べる検査です。記憶や学習を司る「脳の海馬」が萎縮していないかをMRI検査で確認し、簡単な認知機能検査も行い、認知症のリスクを評価します。
安心できる健診・人間ドック施設の基準を教えてください。
次のような施設であれば、安心して人間ドックを受けられるでしょう。
・自治体(市区町村)、加入している医療保険(医療保険者)が指定する医療施設あるいは
会社が契約している病院
・健診部門があり健診・人間ドックの専従医師がいる医療施設
・繰り返し受診する人(リピーター)が多い
・医療従事者が受診している施設
・受診経験者からの口コミがよい施設
また、専門医が検査結果を丁寧に説明してくれるか、異常が見つかったときに適切な病院を紹介してくれるかどうかも、健診施設の質を判断する重要なポイントです。
健診や検診、人間ドックの活用で病気を早期発見
今回のセミナーでは、「健診」「検診」「人間ドック」の目的や役割についてご紹介しました。各検査の意味や利点、限界を理解した上で、効果的に活用していきましょう。
・健康診断は「健康状態の確認」を目的としています。
・検診は「特定の病気を早期発見」するための検査です。
・より精密な検査を希望される方には、「人間ドック」の継続的な受診をおすすめします。
四谷メディカルキューブ 健診センターでは、病気を発症してから治療を受けるのではなく、定期的な人間ドックを通じて病気のリスクを早期に発見し、早めに対応することを重視しています。そのため当院では、三大疾病(がん、心疾患、脳卒中)や生活習慣病の早期発見を目的とした「総合健診」や、一度の検査で多くのがんを比較的早期の段階で発見する「PETコース」など、充実した健診メニューをご用意しています。
人間ドックの主な検査項目には、PET/CT検査、MRI検査、CT検査、内視鏡検査、超音波検査などがあり、これらの結果をもとに総合的な診断を行います。人間ドックに関する疑問や不安がある方には、保健師による無料相談も実施していますので、どうぞお気軽にご相談ください。
人間ドックに関するお問い合わせ・受診予約
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