骨盤臓器脱・性器脱(こつばんぞうきだつ・せいきだつ)

女性に日常的に見られる疾患です。一人で悩まないで。
【監修/嘉村康邦医師】
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骨盤臓器脱・性器脱

子宮脱などの骨盤臓器脱(性器脱)の治療

子宮脱などの骨盤臓器脱性器脱)の治療には大きく分けて(1)保存的治療、(2)各種手術の2つがあります。
どの治療を選択するかは様々な因子によります。どんな脱でその程度はどうなのか、症状の重症度、年齢や身体状況(大きな合併症がないかなど)、挙児希望の有無、生活スタイルなどを総合的に考えなければなりません。

保存的治療法

(1)骨盤底筋体操(ケーゲル体操)

軽症の骨盤臓器脱には、骨盤底筋を鍛える体操(ケーゲル体操)が有効です。
この体操で脱が治るということはないのですが、脱の進行がくい止められ、脱に関連する痛みが緩和されたり、尿失禁の改善が期待できます。またこの治療は即効性はあまり期待できませんが、根気強く続けることで、自分の力で症状の改善を得ることができます。

ただし神経の障害が強く、骨盤底筋を最初から収縮できない女性にはまったく効果がみられません。
また最初は正しい骨盤底筋の収縮をさせることができない女性が多いため、専門の医師、看護師や理学療法士による指導が不可欠です。当院女性泌尿器科では専門スタッフが骨盤底筋体操指導を行っています。

(2)膣内装具(イントロール、ペッサリーなど)

「手術はちょっと・・・」と躊躇されたり、合併症などの問題で手術ができない場合など、膣内装具で脱を元の位置にもどして症状をとる方法があります。
避妊具用のペッサリーがよく使われますが、脱の症状は取れても腹圧性尿失禁がひどくなる場合がありますので、適したものを選択することが大事です。当院では、尿失禁にも子宮脱などの骨盤臓器脱にも対応できる膣内装具を準備しています。

子宮脱などの骨盤臓器脱(性器脱)の手術療法

(1)従来の手術療法(骨盤臓器脱修復術)

子宮脱などの骨盤臓器脱(性器脱)に対する手術方法は様々なものがありますが、基本的にはゆるんだ膣壁をある程度切除して縫い縮める手術(膣式子宮全摘術と前後の膣壁縫縮術の組み合わせ)が従来は主に行われてきました。

しかしこの手術方法は、そもそも緩んでしまった弱い組織を使って修復するため、高率に骨盤臓器脱(性器脱)の再発を認めます。たとえば膀胱脱の従来法による修復術(手術)では、1年後再発率が60%といった報告もあるほどです。また膣壁を切除して縫縮するため、膣内腔が狭くなり性交障害の問題が生じることもあります。
一方、高度の骨盤臓器脱に対する修復術として、筋膜やメッシュなどを用いて膣尖部を仙骨に固定する手術方法(膣断端-仙骨固定術)があります。
この手術は再発率も少なく、膣の長軸が生理的で機能的にも優れているため、ゴールドスタンダードといわれる術式です。しかし通常開腹が必要で、侵襲の高い手術であり一般的とはいえません。

このように従来の骨盤臓器脱(性器脱)修復術は耐久性や侵襲性に問題があり、開腹を要しない経膣手術で信頼性の高い術式の出現が望まれていました。

(2)TVM(Tension-free Vaginal Mesh)手術 - メッシュ手術

2000年にフランスの婦人科医コッソンらは、骨盤臓器脱(性器脱)に対する従来の手術方法の高い再発率を改善させるべく、ポリプロピレンのメッシュで弱くなった支持組織を置き換える術式を開発しました。これが Tension-free Vaginal Mesh手術(TVM手術メッシュ手術)です。
TVM手術は、ちょうど外科が鼠径ヘルニア手術において従来法の高い再発率を改善させるべくメッシュ材料を使うようになったのと似ています。

TVM手術は日本においても優れた人工材料が市販されるようになり、しだいに広まりつつあります。新しい術式ですので、まだ長期成績はわかりませんが、短期成績は非常に優れており、患者満足度も高い手術といえます。

当施設においても、TVM手術の経験豊富な泌尿器科専門医が保険診療にて行っています。
なお、当院でのTVM手術の入院期間は原則2泊3日ですが、術後早期にメッシュ(上図)がずれてしまうと脱が再発してしまうため、退院後も激しい運動や腹圧がかかるような活動は1ヶ月半程控える必要があります。日常生活に問題はありません。

(3)TFS(Tissue Fixation System)手術

オーストラリア・ロイヤルパース病院のPeter Papa Petros教授は自身の著書の中で、「私の仕事の初期の目的は、腹圧性尿失禁手術を、10日以上も入院しなければならない大手術から侵襲の低い日帰り手術へと改良することであった。」と述べています。
彼はこの問題を解決するため精力的研究を積み重ね、スウェーデン・ウプスラ大学のUlf Ulmsten教授とともに、まったく新しい概念で骨盤底機能を捉える“インテグラル理論”を構築しました。そして彼らはこの理論を元に、中部尿道を人口材料のメッシュテープで支える新しい尿失禁防止術-TVT手術を開発しました。

彼らが報告した初期の治療成績はすばらしいものでしたが、TVT手術以前の従来の尿失禁防止術がもっぱら膀胱頚部を挙上させるものであったため、中部尿道をテープで支えるTVT手術で尿禁制が得られることを、当時の世界の研究者たちは簡単には理解することができませんでした。にもかかわらず、TVT手術は瞬く間に世界を席巻し、尿失禁防止術のゴールドスタンダードとなってしまいました。
結果的にはTVT手術の高い有効性や低侵襲性が、インテグラル理論の正当性を証明することになったのです。

一方インテグラル理論は、尿禁制機構を説明するにとどまらず、排尿障害、排便障害、子宮脱等の骨盤臓器脱など、すべての骨盤底機能障害の病態をも説明しうる理論であったのです。紙面の都合上詳細は割愛しますが、インテグラル理論によれば、膣および子宮は骨盤底という「吊り橋」の上に載っていて、この橋は前方、後方、下方の3方向のベクトルに引かれることによってバランスを保っているとされます(右図)。

排尿・排便や尿禁制・便禁制はこのバランスをうまく調節することで行われ、吊り橋のバランスが崩れれば、尿失禁や排尿困難、あるいはまた排便障害などが生じてくると考えられます。
さらに子宮脱などの骨盤臓器脱(性器脱)もまた、この吊り橋のバランスの崩れで病態の説明がつくのです。

Petros教授は骨盤底(=吊り橋)のバランスの崩れを、緩んでしまった部分をメッシュテープで吊り上げることで直せるのではないかと考えました。これがTFS(Tissue Fixation System)手術なのです。
具体的には、TFS手術では骨盤臓器を支持する各種靭帯のなかで弛緩してしまったものをポリプロピレンのテープで補強して吊り上げ直します。テープの先端にはアンカーと呼ばれる小さなクリップがついており、これを組織に打ち込むことで、テープによる吊り上げを実現させます。
このような靭帯の補強・強化は、単に骨盤臓器が下垂(=脱)するのを防ぐのみならず、周囲の筋肉の力が有効に働くようになって、本来の骨盤底機能が回復します。たとえば夜間頻尿や頻尿、尿意切迫感といった下部尿路症状や骨盤痛など、一見骨盤臓器脱(性器脱)とは関係のなさそうな症状も、手術後回復することが知られています。

手術に用いるテープの本数は、骨盤臓器脱(性器脱)の程度や種類によって異なりますが、通常3~6本を使用します。残念ながら最新の手術方法であり、現在のところ保険適応はなく、自費手術となります。費用は手術費用(2泊3日の入院費含む)が88万円、その他に術前・術後の検査費用として5万円かかります。

TVM手術とTFS手術の違い

TVM手術とTFS手術の違いは、TVM手術が大きなメッシュで脱出した臓器を‘面’で支えるのに対し、TFS手術は弛緩した支持靭帯に細いメッシュテープを沿わせる、いわば‘線’による支持といえます。
したがってTVM手術はかなり大きなメッシュが必要になるのに対し、TFS手術ではメッシュの量が極めて少なくて済みます。 ポリプロピレンのメッシュは、生体に用いる人工材料として長い変遷の中で選び抜かれてきた材料であり、生体適合性もよく、過去の材料と比べれば確かに優れています。
しかし、異物であることには変わりないわけです。 したがってメッシュが膣内に露出する合併症が認められます。TVM手術、 TFS手術ともに真の長期成績はまだ出ておらず、今後このメッシュの露出に関しては懸念が残るわけです。
この意味では、できるならばとにかくメッシュの量は少ないほうが良いのではないかと思われます。

一方手術侵襲についてみてみると、これは明らかにTFS手術のほうが少ないといえます。TVM手術も開腹を要しない経膣手術ですので低侵襲ではありますが、膣壁の剥離面積がTFS手術と比較してより大きくなります。TVM手術に対しTFS手術は、きわめて少ない剥離で施行が可能です。

“メッシュの量も少なくて、より低侵襲・・・”となると、TVM手術に比べてTFS手術が明らかに優れているように聞こえますが、面で支えるTVM手術はやはり安定感があります。
Petros教授も報告していますが、膣尖部も落ち込む重症の脱症例でTFS手術を行うと、10-12%に再発を認めるとのことです。
一方でまた、TVM手術によって大きなメッシュで膣内に落ち込む膀胱底部を支えると、やがて瘢痕化してその部分の動きが悪くなります。生理的には膀胱底部も収縮・弛緩を繰り返す部位ですので、TVM手術により非生理的環境を作っている可能性があるのです。TFS手術であればこのようなことはなく、生理的環境が温存されると考えられます。TFS手術で下部尿路症状や骨盤臓器脱(性器脱)に伴う症状が改善されるのは、このことが関係しているのかも知れません。

TVM手術、TFS手術ともに、それぞれ一長一短がありますので、個々の患者さまの骨盤臓器脱の程度や症状、さらにはライフスタイルも十分に勘案した上で、納得のいただける骨盤臓器脱の修復術を提供したいと考えています。

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